26話 カラクリを操る首謀者
自分を被害者に仕立て上げる為に、ノビラを利用する事を考えた。天田の行動を調べ上げていた薫は、彼がノビラと言うある裏組織を仕切っている代表だと知る事が出来た。通常は複数の会社の情報を売買する情報屋のような内容が主軸だったが、天田にある事を言うと、その事に興味を抱いたノビラと引き合うきっかけを得る事が出来た。「初めまして、ですよね。僕はノビラと言います、よろしくです」 たった一つの提案を遠回しに口にしただけで、こんなにも簡単に接触が出来るとは思わなかった。思い通りに動いていく現実に嬉しさが湧き上がっていく。ノビラはどうやら、自分と出会えた事に喜んでいると勘違いしているらしく、なるべく好印象を務めているような感じだった。 伊月を縛る要因を最終的に自分の力に変える為の下準備をしている薫の行動に、誰も気づく事は出来なかったんだ。 今まで自分が動いた事が原因で伊月についていた人物達をこちらに向ける事が出来た。協力者のゼロを使う事で、伊月の裏をかいていった。自分が提案したパーティを引き起こす事で、正義感の強い伊月の行動を狂わせる事が出来ると踏んでいた薫は、自分をターゲットになるように、複数の人間を操る事で仕立て上げていく。「彼ならいい資金になると思いますよ」 ゼロと支援者達が合意を起こす事で、ノビラの背中を押す事に成功した。伊月の仕事の邪魔になるノビラの存在は最終的に警察組織に明け渡す算段になっていた。そして薫は葉月に新薬を作るようにゼロを通して要望を叶えると、逃げる術を失った被害者のように振る舞うと、新薬を飲んだ。「運が良かった、これで次のステージに進めれる」 カラクリの正体を知っているのは薫とゼロだ。他の人は薫の正体を知らずに、見えない影に怯えながら言う通りにしていたようなもの。ゼロと自分の目的が一致した為に、実現出来たのだ。 彼は彼で、ノビラの側で上手い事説得させ、後始末をしている所だろう。「二人の幸せの為なんだ、きっと君は分かってくれるよね」 その声が伊月に届く事はない。満面の笑みで受27話 密約と獣 オークファンの噂はまだ聞こえてくる。あんな一件があったのに、ノビラは懲りていないようだった。薫はこれ以上、伊月を危険な目に合わせる訳にはいかないと、彼の親父の元へと足を運んだ。 会うのは学生ぶりになる。あの時はたまたま巻き込まれただけで、その道筋の仕事がどんなもの七日をよく理解していなかった。 応接室で待っていると、裏組織を束ねる重鎮には見えない風貌に変わっている親父が入ってきた。落ち着いた高級なスーツに包まれている彼は、どこからどう見ても社長とかそっち方面にしか見えない。オーラーが彼を輝かせているようにも見える。「久しぶりだね、薫」「お世話になってます、親父」 最初は名前で呼んでいたけど、伊月と同じように呼べばいいと言われ、この呼び名で通す事になっている。伊月が組織の情報を外部に漏らした時も、こうやって話をした事を思い出した。「伊月は元気かい? 君と接触したんだろう」 何も与えていないはずなのに、情報とは怖いものだ。親父の耳にも入っているとは。予想はしていたが、目の当たりにすると、恐縮してしまう。この人だけはどんな事があっても、敵に回してはいけない。「ノビラを逃しました」「……そうか」 久しぶりに向き合うと今の現状に関して語り出す。大体的に行動を起こすと聞いていたが、ここまで大ごとになるとは思っていなかった。どっしり椅子に座っている親父を目の前にすると、緊張していく。呼吸の仕方を忘れてしまうくらい、重苦しい。「おおまかな事は君に任す。細かい事はこちらで処理しよう」「助かります」 二人の間では密約を結んでいる。伊月の足取りを掴んで、引き戻す為に協力関係になって今がある。親父からしたら例え、自分の為に情報を外へ流した伊月を許す事は難しいはずだった。それでも薫の存在が彼にとっての知らしめになり、将来への補償を約束している。 勿論、伊月はこの事を何も知らない。ただ自分の握っていた情報に揺られて、行動していただけだった。何も起こらないように薫の日常を監視していた伊月にも気がついてい
26話 カラクリを操る首謀者 自分を被害者に仕立て上げる為に、ノビラを利用する事を考えた。天田の行動を調べ上げていた薫は、彼がノビラと言うある裏組織を仕切っている代表だと知る事が出来た。通常は複数の会社の情報を売買する情報屋のような内容が主軸だったが、天田にある事を言うと、その事に興味を抱いたノビラと引き合うきっかけを得る事が出来た。「初めまして、ですよね。僕はノビラと言います、よろしくです」 たった一つの提案を遠回しに口にしただけで、こんなにも簡単に接触が出来るとは思わなかった。思い通りに動いていく現実に嬉しさが湧き上がっていく。ノビラはどうやら、自分と出会えた事に喜んでいると勘違いしているらしく、なるべく好印象を務めているような感じだった。 伊月を縛る要因を最終的に自分の力に変える為の下準備をしている薫の行動に、誰も気づく事は出来なかったんだ。 今まで自分が動いた事が原因で伊月についていた人物達をこちらに向ける事が出来た。協力者のゼロを使う事で、伊月の裏をかいていった。自分が提案したパーティを引き起こす事で、正義感の強い伊月の行動を狂わせる事が出来ると踏んでいた薫は、自分をターゲットになるように、複数の人間を操る事で仕立て上げていく。「彼ならいい資金になると思いますよ」 ゼロと支援者達が合意を起こす事で、ノビラの背中を押す事に成功した。伊月の仕事の邪魔になるノビラの存在は最終的に警察組織に明け渡す算段になっていた。そして薫は葉月に新薬を作るようにゼロを通して要望を叶えると、逃げる術を失った被害者のように振る舞うと、新薬を飲んだ。「運が良かった、これで次のステージに進めれる」 カラクリの正体を知っているのは薫とゼロだ。他の人は薫の正体を知らずに、見えない影に怯えながら言う通りにしていたようなもの。ゼロと自分の目的が一致した為に、実現出来たのだ。 彼は彼で、ノビラの側で上手い事説得させ、後始末をしている所だろう。「二人の幸せの為なんだ、きっと君は分かってくれるよね」 その声が伊月に届く事はない。満面の笑みで受
25話 複数の点が線へと変わる瞬間 追いかけても追いかけても、手から溢れようとしていく伊月を引き止める為に、薫は何でもするつもりでいた。今回の事もそう、全ては彼の先を案じて先手を打っていただけ。 薫の前では和田の姿から伊月へと舞い戻ってくる。住んでいる場所は違っても、週4くらいの頻度で薫の部屋に入りびたっている。表面上は心配だからと言っているが、以前のように伊月と対立する関係の者が薫へと手を出さないように監視しているのかもしれない。 ノビラはこの状況を把握しているように、いつの間にかあの店から姿を消していた。最後の情報を得る為に、数日間はいたみたいだったが、他の組織の動向を確認したのだろう。身を隠したようだった。 「必ず、俺が君を守るから」 熟睡している伊月に囁きかけると、可愛い声が耳を掠める。以前の自分なら伊月の声に反応して戸惑っていただろう。しかし、今の薫は別人のように余裕を持っている。 伊月に渡したパソコンはずっと彼の行動を監視する役割を担っている。その事実に気づく事なく、信用してくれる伊月が愛おしい。 「買い物、行ってくるか」 起こさないように頭を撫で、スマホにメッセージを残すと、食材を買いに行く。 余裕を持つ事も出来なかった昔の自分は、遠い影の一部と重なり合いながら、時間の流れを感じさせてくれる。一人で行動する事は、伊月からしたら怒るきっかけを与えてしまうかもしれない。それでも、わざと一人の時間を作る事で、見えてこなかったものを見る事が出来る。考え事をする時間にあてるのも適しているんだ。 「俺は俺の思う通りに生きる」 覚悟を口に出すと、今まで感じていた不安の正体が見えた気がした。自分の意思より伊月の考えを優先していたから、縋り付くような形になっていた事に。七年の月日は薫の全てを変えていったんだ。 そう全てはあの日から始まったのかもしれない—
24話 使い分けなくてはいけない 機械を通して声を変えていくと、自分の声とは程遠い低音が流れる。情報を交換する為に、自分の正体を隠す必要がある伊月は、いそいそと作業を進めていった。後は相手の承認を待つだけだ。合図はこの回線に埋め込まれている記号音で確認出来るから、便利なものだ。「もしもし名東だが、お前は誰だ?」 パソコンを通して流れてくる声は思った以上に年上だった。伊月はいつもの調子で演技を開始していく。「初めまして名東さん。そちらがある組織を追っているのは把握している。私もその組織を追っていてね、協力関係を結びたいのだが、どうだろうか?」 本当の自分を隠して役を作っていくのは、刺激があって楽しい。そうやって成り切っていくと、確かめるように声が届いた。「もしかして、お前は」 自分とコンタクトを取りたい人間を頭の中で探っていたらしい。正直、伊月にたどり着いたのかは分からないが、そう簡単ではないだろう。ハッタリの可能性が高い。それを見越して、わざと相手の話に合わせる伊月は、心の中で笑いながらも、冷静を保とうとしている。「それはどっちでもいい、あんたが考えている事で正解だ。それよりどうする、協力関係になるのか、ならないのか、その返答を聞かせて貰わないと話が進めないからな」 薫に作ってもらったパソコンは使いやすい。そしてその中で声以外の環境音を取り込めないように作り変えている。正体をバラす訳にもいかないので、複数の国のサーバーを介して話をしている。「お前の持っている情報には価値があるのか?」「あんたからしたら喉から手が出る程、欲しいものだと思うよ」 ノビラの束ねる組織は彼が考えているよりも、大きな組織になりつつある。日本だけではなく、今では世界にも広がりを見せているのが現状だ。名東がどこまで把握出来ているのかは知らないが、何の足も掴めてない彼らからしたら、機密扱いになる情報だろう。「何の約定もなしに受け入れる事は出来ないのが本音だが、お前の声には思い当たる節がある。今回はその提案を受けよう」「話が早くて助かる
23話 新しい縁 熱が下がったのを確認すると、起きた時に食べれるように、雑炊を用意した。メッセージが入ったのを確認すると、メモを書き残して、薫の部屋から出ていく。まだ一緒に居たい気持ちを抑えながら、自分の次の行動へ繋がる手立てを手に入れる為に—— 着替えを持ってこなかった伊月は、マスクのお陰で和田に成り切っていく。泊まりだと指摘されたとしても、逃げ道は作っているから大丈夫だと言い聞かせると、目的地の地図を確認しながら、歩いていく。「ここか」 20分歩いたぐらいにやっと目的の建物が目に入る。平日だからか、人の姿は見えない。自分の部屋に戻るような感覚で、トントンと階段を上がっていくと、古びた部屋部屋が物静かに佇んでいた。呼び鈴を押すと、ガチャリとドアが開かれた。「僕だけど」「入って」 この部屋は時々だが情報を売買する時に使う隠れ家のような場所だ。ある人物の息がかかった一部の人間しか使用出来ない為、簡単には表に出る事はない。どの時代になっても表裏一体。「これが頼まれていた資料だ」 茶封筒に封じられている情報は天田の調査報告書だった。表面的に見える部分は勿論、裏で何をしているかが全て記されている。「弱みを握られた可能性はあるだろうな。それともお前が気に入らなかったとか」 皮肉を混ぜながら、ハッと腹から笑うと、口元のピアスが揺れた。情報屋は名乗らない、ただ仕事の為に必要なものを用意するだけなのだから、そこには名前なんて必要ない。 これ以上、踏み込む事はしない。正直、ある程度の顔見知り程度にはなっているのだから、呼び名でも教えてほしい気持ちはある。全てはルールによって成り立っている世界。どう思おうが、変わる事はない、これからも。「まぁ、どう感じているのかは本人しか分からないかもね」 あっけらかんとした雰囲気を漂わせながら、口走ると、余裕を持っているように見せてくる。張り合いたいのか、こうやって人の感情を逆撫でしてくる。「今回の情報料は」 財布の中には念の
22話 人の有り難さ じっとりとした体をゆっくり拭き始めていく。最初自分で吹いていた薫を見かねて、伊月がタオルをぶん取った。「何す……」「ちゃんと拭けてないだろ。僕が拭くよ」 タオル越しに伝わってくる手がゆっくりと背中をなぞると、何だかゾクゾクしてしまう。こうやって人に吹いてもらうのは、子供の頃以来だった。母の柔らかい口調と温もりを思い出していると、無言になっていた薫に、声をかける。「気持ちいい?」「うん」 伊月がそう言うと、在らぬ妄想をしてしまう自分が何だか恥ずかしく思えた。一生懸命看病してくれているのに、不謹慎なのだろう。 伊月に言われるまま、熱を測るといつもより体温が高い。基本平熱が36度に到達しないのに、今日に限っては37度もある。疲れが溜まっているのかもしれない。「無理してたんだね、気づけなかった」 申し訳なさそうに呟くと、手の動きが止まった。どうやら拭き終えたようだ。「今日は安静にして。明日様子を見て、休みを取ろう。僕も明日は有給取ったから」 薫が寝ている間に上司に連絡を終わらしていた薫は、そう言いながら、服を着せていく。脱がされる事はあっても、逆はなかなかない二人は、まるで新婚のような雰囲気を纏いながら、横になった。 悪夢を見ないようには出来ない。それでも少しでも気分を紛らわそうと、昔話を話してくれる。伊月也の配慮かもしれない。ふわふわと氷枕が脳を冷やしていく。次第に虚になって、空に飛んでいきそうだった。 意識を手放そうとしている薫の額に、優しいキスを落とすと、まるで母親のように、優しく頭を撫で、寝かしつけていく。「ん……」 顔を赤くしていた薫の表情が緩やかに変化していく。寝る前に氷まくらを設置したのが正解だった。部屋にあった解熱剤の効果もあるだろう。一つのベッドで二人が寝ている。なかなか寝れない伊月は、うっすら開けていた瞼を、ゆっくりと閉じると、頭の中で数を数え始めた。「おやすみ」 寄り添いながら、互いの熱